第二話

第1章 俺がホストというものを知った日

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しばらくして、新聞の折り込み求人広告に埼玉の西川口で「ホスト募集」の文字を見かけた。そこは家の沿線だった。前の失敗もあり、今度は電話でじっくり説明を聞いた。「スーツ着用で着て下さい」「お客様はすべて女性です」と、今度は本物のホストクラブのようだった。「夜中の12時頃来て下さい、店は朝までです」と言うので、早速、丸井に走り、靴とスーツをローンで買い、しっかりきめて行ってみた。


店は広いハコで、50席ほどある。ホストは多いが、薄暗い中に幅広の襟のスーツに鞭打ち症になるのではないか、と思われるような襟の高いワイシャツを出した格好で30〜40歳くらいの男ばかりが20人ほど座っていた。


その日の新人は、もう一人いた。同い年くらいの少年だった。二人は一緒に並んで立たされた。最初にトイレの前で女のお客におしぼりを渡したり、灰皿交換の仕事。ずっと立ちっぱなしだった。明け方近くになって初めて席に座らせてもらった。そのまま水割りの作り方を教わったり、アイス交換をしたりの遣い走りで一晩が過ぎた。しかし、客は通算で3組ほど。


1日目の保証は3000円だった。先輩に呼ばれると、ヘルプ料として800円が付く。指名があると3000円付く他、売上げの何%かのバックがあるらしい。しかし、控え室に貼ってあるグラフを見ると、どうも客は少ないようだ。もう一人の新人と二人で話しながら帰った。「こんな店じゃ駄目だな。客なんか来ない。ホスト達も陰気臭い・・・。10代は俺達新人二人だけだし、あとはオヤジだけじゃん」と俺。
西川口で別れながら「俺は、もう今日で辞めるからよ」と伝えた。彼も同じようなことを言っていた。
なんとも情けない店だったが、それが、まかりなりにもホストとして仕事した最初の経験だった。


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