第三話
第2章 新宿ジゴロの衝撃
日々の忙しさに忙殺され、いつの間にか「ホスト」の記憶が薄れてきた頃、また衝撃的な事があった。何とはなく昼のワイドショーを見ていた時、衝撃が走った。
それは、画面に伏見直樹という、今で言えばマツケンサンバの松平健のようなど派手なキンキラしたスーツを着た人物と、5〜6名のホストらしき男がパイロットのスーツとエルビスの衣装をまぜた派手な格好の男達がTVに出ていたのだ。
司会者と激論をしている彼らは、自分の中にあった従来のホストのイメージとはまた違う感じがした。内容は女から金を貢がせてはいけない、女を騙す事を仕事としている、とか司会者と出演者のバトルが有った。
その後、VTRが流れた。アキラというあるホストの私生活が映った。
いろんな女達が「アキラ!アキラ!」といって男を取り巻いていた。月給が当時200万円、という。眩しいようなアキラの生活にショックを受けた。こんな奴らがいるんだ。思わず生唾を飲み込んだ。
最初に登場した伏見直樹という男は、もともとはホストで、新宿の愛本店でNo.1ホストとして働いていた。そして、その店から独立して今の「新宿ジゴロ」という、「ホストクラブではない新しい形の店」をオープンしていた。
それを見て、眠っていた血が騒いだのか、納まっていたものが噴出した感じで、再びホストになる気持ちになった。
新宿の歌舞伎町・コマ劇裏の路地にある。まるでスナックを思わせる小さな店。店の外から入口にかけて紐に金色の地で丸秘とか書いてある三角の旗のようなものが1メートル間隔くらいに吊下がっていた。よく言えばディズニーランドにあるお城のミニ版だが、何とも言えない違和感を感じた。
『またおかまバーか?おかまクラブに来てしまったのか?』と嫌な記憶がもたげて、しばらく入口の前にいた。しかしせっかく来たのだし、一念奮起して小さな木製の扉を開けてみた。中に入ると、薄暗く古臭い匂いがする。店自体は7〜10坪くらいのスナック風で、奥にカウンターがある。
壁には「モテる男の3箇条」なるクセのある文字の手書きのものがあった。その下には「1は“押し”2“金”、3“色男”」と書いてある。写真も何枚も貼ってあり、バンビ田宮というホストの写真は暴走族の格好をしたり、ハッピにハチマキ、日本刀を振りかざした写真だった。後で分かったのだが、彼は元暴走族のリーダーで、今では俳優もやっていて、雑誌にも紹介され、全国から客も来るNo.1ホストだ。
面接に出て来た男は「スニーカー清」という名で、1m90cm近くはあるものすごく背の高い男。「俺はモデルもやっている」というようにスリムな体格に、眼は三白眼で迫力があり一見“いい男”に感じる。長い首には、当時としては珍しくスカーフを巻いていた。ウェスタン風のジーンズにウェスタンブーツという出で立ちで、より足が長く見える。スニーカー清は、「ホストは厳しいからな。売れるまでは何ヶ月もかかるし、殆どの奴は辞めていくよ」と前置きしながら、「最初はキッチンで皿洗いで働いてもらい、店が終わっても先輩に付いて遣いっぱしりだね。最初は1日3千円くらいで給料も安いし、TVで言っているように稼げる可能性はあるが、そこにたどり着くまでには甘くはないよ。大体、お前は女をナンパできる?女をナンパできなけりゃ仕事にならないぞ!店でちゃんと女が退屈しない話をできるか?それで、もしやる気があるなら、もう一回来てみな!」と追い討ちをかける。
『これは凄まじいな。俺には無理なのか?』さすがに意気消沈して、その日は帰ることにした。しかし、やたらに悔しさが残った。悔しさが日々強くなっていった。その気持ちが徐々にやる気に繋がっていった。『とにかく駄目でもともと、やっぱりこのままで済ませたくない』そう思って再び立ち上がる気力が回復するまで一週間がたった。
続き
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