第十二話

第6章 指名生活

 店には様々なお客が来る。指名と連れ立ってくる客、フリーで来る客は枝と称して狙い目となる。その枝も太い枝か細い枝で、今後の自分のホスト生活に影響が出る。当時一番太い枝はソープ嬢やホテトル(当時はホテルトルコといい、その省略語)嬢、マントル(マンショントルコの意)嬢などの風俗嬢で、二番目に太いのはボッタクリヘルス嬢(当時は歌舞伎町が浄化される前で、ボッタクリのヘルスが横行していた)やピンサロ嬢だった。そして、一番始末に負えないのがOLや銀座などのクラブホステスやキャバレー嬢だった。なぜかと言うと、あまり稼ぎがないので、月に一度か二度くらいしか通えなかった。

  そうした枝を拾うと次に指名してもらうために一日3回は電話をするし、デートをしたり、場合によっては寝ることもある。ただし、当時は携帯電話がないので、電話番号を聞くのも至難の技。時には嘘の電話番号を教えられたり、上手く本当の番号を聞き出しても、親が出て繋いでくれなかったり、相手が一人暮らしなら、なかなか連絡が取れない。留守電に入れてもなかなか相手にしてもらえなかった。それでも必死に連絡を取ろうと努力する。例え最悪のOLやピンサロ嬢でも、ヘルスやソープに送り込むことができれば、どんどん稼げる女になるからだ。
もちろん最初からソープで働いている女を手に入れるのが一番手っ取り早い。女を稼げる女に仕込むための時間がかからないからだ。

  吉原で働いているソープ嬢の大体3割は北海道出身の子が多い。どうも北海道は看護婦や水商売に勤める以外は仕事がないようだ。そして、そうしたソープ嬢の6割は男が付いていないケースが多かった。そのためにソープ嬢を手に入れるために様々な取り合いがあった。

  客を手に入れるために営業することを「特攻隊」と言って、「キャバレー(当時はキャバクラはなく、キャバレーが多かった)特攻隊」「ソープランド特攻隊」と言われていた。そうした「特攻隊」には店が半額見てくれて、残る半額を自腹を切って営業していた。

  ソープランドという所は、金はかかるが、ソープ嬢は性格も良く、一度自分のものにできれば、相当太い客となる。もちろんライバルも多かった。特攻隊には、経費も嵩むので、先輩からのアドバイスをしっかり聞いて参考にした。

  まず店に行ってもSEXはご法度。自分が欲求を制御する自信がないと思ったら、まず行かないことだ。もちろん物凄くSEXが上手くソープランドでソープ嬢を本当に何度も逝かせることができるのなら、それも武器になる。しかし、ソープ嬢は商売でやっているし、演技で逝ったフリをしているので、SEXで自分のものにするのは、殆ど不可能に近い。普通のホストのやり方は、まず店に行って、自分の正体を晒すか晒さないかという問題がある。結果的には正体がばれるので最初に自分がホストだと明かした方が良い。ソープ嬢だって、客がいなくて指名が取れないこともある。そういう時に「呼んでくれれば自分が行く。その代り俺もホストをやっていて、月に2回程度指名日があり、そういう時だけでいいから来てくれないか?」と誘うのが無難なトークだ。「キミだって客と(SEXを)やりたくない時とかあるだろ?疲れている時があるだろう?そういう時は俺が行って、ただ話するだけなら、その2時間くらいはキミも休憩できるだろ?」というような理屈だ。そうしたフィフティフィフティの関係を築く場合もある。

  その辺はヒモがよく使う手口だ。自分の女を他人に取られないように送り迎えはマメにし、女が疲れている時は、ヒモがお客となって店に行き、その時間で女を休ませてやるわけだ。

  ヤクザの場合はまた違う。まず何度も店に通う。場合によったら2週間くらい通い続ける。サイフには見せ金だが、いつも二○○万くらい入れておき、店で鰻や寿司を取って振舞ったり、酒を飲んだりする。それでもSEXは一切しない。そうして女と一緒にマンションを借りたりして、数ヶ月後に女に「男をたてるために金が必要だ」とか「男になるためにどうしてもこれだけの金がいる」とか言って女から金をせびる。そこまでは相当な資金が必要だが、ヤクザも勝負する。
こうしたライバルとともにソープ嬢をおとすのである。

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