第十三話

第7章 女の口説き方

 ホストといっても、そう簡単に女を口説けるようになるわけではない。ただ顔がいいからとか格好いいからという理由で女が付いてくるものではない。ナンパといえども、生活がかかると真剣勝負となる。俺は先輩に相談したり、いろいろ試しながら、暗中模索を繰り返した。

  一般にナンパスポットと言われているのは渋谷の109の前とか新宿のアルタ前。単純にそういう所に行って女に声をかければ良いというものではない。まず、そうした所にいる女に声をかけると、ナンパに来たな、と身構えられてしまう。またスカウトマンもいっぱいいる。キャバクラ、風俗、AVなどのスカウトマン。そこで声をかければ、そうしたスカウトと間違えられる可能性もある。

  むしろ意外な場所が功を奏する。例えばデパートの中、駅のコンコースやホーム、凄腕のホストは電車の中でナンパする者もいた。本来、そういう所ではナンパしない、こんな所でのナンパはありえない、そういう場所では、相手もまさかナンパとは思わないので警戒しないし、当然ライバルもいない、だからこそ狙い目なのである。

  声をかける時に注意する点は、相手に警戒されないこと。ちゃんと相手の目を見て、「俺はナンパ師でもスカウトマンでもない」旨、丁寧にきちんと伝えることだ。例えば、まず「すみません・・・買い物ですか?俺は○○○○というものです。こういう所に住んでいて、こういう仕事をしている者です。」とちゃんと仁義を切って自己紹介する。自分がいかに相手に対して安全な人間であるかをアピールすべきである。そうした上で「こういう理由でここに来ましたが、たまたまあなたを見て、ものすごいタイプだし、私の人生であなたみたいな人にはこの先一生会えるかどうかも分からない。そのためにどうしても声をかけずにいられませんでした」というような理由を述べ、筋を通す。

  真面目に真剣に話せば、相手も真面目に応えてくれるものだ。第三者に聞かれたら、ものすごく歯の浮くような恥ずかしいセリフを自信をもって話す。もちろん俺はプロだから、服装や髪型にも十分気を配った。渋谷ならGパンはいてラフな髪型にし25〜28程度に見えるように工夫する。銀座ならスーツで颯爽とした格好をする。そのため渋谷から銀座に移動する際に一度自宅まで帰って、着替えてから向かったこともある。

  もちろん必ずナンパが上手くいくわけではない。どんどん断られる。それでもめげない。何度も何度も挑戦する。ナンパでは名刺を50枚配って、せいぜい一人ぐらいしか電話がかかってこない。それでも毎日続ける。決してあきらめない。ナンパすることが、自分の生命線だし、例え一日でも休むとだんだんナンパできなくなってくるからだ。もし、一週間でも空けようものなら、車の運転でのペーパードライバーならぬペーパーナンパ師となってしまうからである。

  当時は、一日50枚の名刺配り、電話番号は最低1人は聞くことをノルマとした。そうした上で普通の男が一日3回電話するところを俺は20回はかけた。「マメさと努力」が肝心だ。電話が繋がると相手の名前を連呼して「愛してる愛してる・・・」と何回も言う。これはマインドコントロールにも通じるところがある。『俺は君を愛しているし、君も俺が好きなんだ』といったようなことを何度も繰り返し言うことによって、『もしかして、私は本当に愛しているのかしら?』と相手は錯覚するようになる。

  最後の決め手はボディランゲージ。相手の体を触ることから俺のフェロモンが相手に移るし、相手のフェロモンも感じることができる。と言っても、いきなり触ったら殴られるのがオチ。初めは手相を見るように手を、腕を・・・「ちょっと耳を見せて?福耳だね・・・」とか言いながら、耳を触ったり、頭を撫でるとかして、徐々に雰囲気を作りながら触れば良い。

こうしてありとあやゆる手段を試行錯誤の中で繰り返すことによって、俺も徐々にナンパのプロに変身していった。

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